実語教(じつごきょう)を素読する
目次
- 実語教
- 書籍紹介
実語教 じつごきょう
實語敎
山高きが故に貴からず。樹有るを以て貴しとす。
人肥えたるが故に貴からず。智有るを以て貴しとす。
富は是一生の財。身滅すれば卽ち共に滅す。
智は是萬代の財、命終われば卽ち随って行く。
玉磨かざれば光無し。光無なきを石瓦とす。
人學ばざれば智無し。智無きを愚人とす。
倉の内の財は朽つること有り。身の内の才は朽つること無し。
千兩の金を積むと雖も、一日の學には如かず。
兄弟常に合わず。慈悲を兄弟とす。
財物永く存せず。才智を財物とす。
四大日々に衰え、心神夜々に暗し。
幼時勤學せざれば、老いて後恨み悔ゆと雖も、
尙所益有ること無し。
かるが故に書を讀んで倦むことなかれ。
學文に怠る時なかれ。
眠りを除いて通夜に涌せよ。飢を忍んで終日習え。
師に會うと雖も學ばざれば、徒に市人に向うが如し。
習い讀むと雖も復せざれば、只鄰の財を計うるが如し。
君子は智者を愛し、小人は福人を愛す。
富貴の家に入ると雖も、財無き人の爲には、
なお霜の下の花の如し。
貧賤の門を出ずると雖も、智有る人の爲には、
あたかも泥中の蓮の如し。
父母は天地の如く、師君は日月の如し。
親族は譬ば葦の如し。夫妻はなお瓦の如し。
父母には朝夕に孝せよ。師君には晝夜に仕えよ。
友と交りて諍う事なかれ。
己より兄には禮敬を尽くし、己より弟には愛雇を致せ。
人として智無き者は、木石に異ならず。
人として孝無き者は、畜生に異ならず。
三學の友に交らずんば、何ぞ七學の林に遊ばん。
四等の船に乘らずんば、誰か八苦の海を渡らん。
八正道は廣しと雖も、十惡の人は往かず。
無爲の都に楽しむと雖も、放逸の輩は遊ばず。
老いたるを敬うは父母の如し。幼を愛するは子弟の如し。
我他人を敬えば、他人亦我を敬う。
己人の親を敬えば、人亦己が親を敬う。
己が身を達せんと慾する者は、先ず他人を達せしめよ。
他人の愁いを見ては、卽ち自ら共に患うべし。
他人の喜びを聞いては、卽ち自ら共に悅ぶべし。
善を見ては速やかに行え。惡を見ては忽ち避けよ。
善を修する者は福を蒙る。譬ば響の音に應ずるが如し。
惡を好む者は禍を招く。あたかも身に影の随うが如し。
富むと雖も貧しきを忘るることなかれ。
貴しと雖も賎しきを忘るることなかれ。
或いは始めは富みて終り貧しく、
或いは先に貴く後に賎し。
それ習い難く忘れ易きは、音聲の浮才。
また學び易く忘れ難きは、書筆の博藝。
但し食有れば法在り。また身在れば命有り。
なお農業を忘れず。必ず學文を廢することなかれ。
かるが故に末代の學者、先ず此の書を案ずべし。
是學文の始め、身終るまで忘失することなかれ。