童子教(どうじきょう)を素読する
目次
- 童子教
- 書籍紹介
童子教 どうじきょう
童子敎
夫れ貴人の前に居ては 顯露に立つことを得ず
道路に遇ふては跪いて過ぎよ 召す事有らば敬つて承れ
兩の手を胸に當てて向へ 愼んで左右を顧ず
問はずんば答へず 仰せ有らば謹しんで聞け
三寶には三禮を盡せ 神明には再拜を致せ
人閒には一禮を成せ 師君には頂戴すべし
墓を過ぐる時は則ち愼め 社を過ぐる時は則ち下りよ
堂塔の前に向つて 不淨を行ふべからず
聖敎の上に向つて 無禮を致すべからず
人倫禮有れば 朝廷必ず法有り
人にして禮無き者は 衆中又過有り
衆に交はりて雜言せず 事畢らば速やかに避けよ
事に觸れて朋に違はず 言語離るることを得ず
語多きは品少なし 老いたる狗の友を吠ゆるが如し
懈怠する者は食を急ぐ 瘦せたる猿の菓を貪るが如し
勇める者は必ず危き事あり 夏の蟲の火に入るが如し
鈍き者は亦過ち無し 春の鳥の林に遊ぶが如し
人の耳は壁に付く 密かにして讒言すること勿れ
人の眼は天に懸る 隱して犯し用ふること勿れ
車は三寸の轄を以つて 千里の路を遊行す
人は三寸の舌を以つて 五尺の身を破損す
口は是禍の門 舌は是禍の根
口をして鼻の如くならしめば 身終るまで敢へて事無し
過言一たび出ずれば 駟追舌を返さず
白圭の玉は磨くべし 惡言の玉は磨き難し
禍福は門無し 唯人の招く所に在り
天の作る災は避くべし 自ら作る災は逃れ難し
夫れ積善の家には 必ず餘慶あり
又好惡の處には 必ず餘殃あり
人にして陰德あれば 必ず陽報あり
人にして陰行あれば 必ず照名あり
信力堅固の門には 災禍の雲起ること無し
念力强盛の家には 福祐の月光を增す
心の同じならざるは面の如し 譬へば水の器に隨ふが如し
他人の弓を挽かざれ 他人の馬に騎らざれ
前車の覆るを見て 後車の誡とす
前事の忘れざるは 後事の師とす
善立つて名を流す 寵極つて禍多し
人は死して名を留む 虎は死して皮を留む
國土を治むる賢王は 鰥寡を侮ること勿れ
君子は人を譽めず 則ち民に怨となる
境に入つては禁を問ひ 國に入つては國を問ひ
鄕に入つては鄕に隨ひ 俗に入つては俗に隨ひ
門に入つては先づ諱を問へ 主人を敬ふが爲なり
君所に私の諱無し 二つ無きは尊號なり
愚者は遠き慮り無し 必ず近き憂ひ有るべし
管を用ひて天を窺ふ如く 針を用ひて地を指すに似たり
神明は愚人を罰す 殺すに非ず懲らしめんが爲なり
師匠の弟子を打つは 惡むに非ず能からしめんが爲なり
生れながらにして貴き者は無し 習ひ修して智德と成る
貴き者は必ず冨まず 冨める者は未だ必ず貴からず
冨めると雖も心多きは慾 是を名づけて貧人とす
貧しきと雖も心慾せば足れり 是を名づけて冨人とす
師の弟子に訓へざる 是を名づけて破戒となす
師の弟子を呵責する 是を名づけて持戒となす
惡しき弟子を蓄むれば 師弟地獄に墮つ
善き弟子を養へば 師弟佛果に到る
敎へに順はざる弟子は 早く父母に返すべし
和らかならざる者を冤めんと擬すれば 怨敵と成つて害を加ふ
惡人に順つて避けざれば 緤げる犬の柱を廻るが如し
善人に馴れて離れざれば 大船の海に浮かべるが如し
善き友に隨順すれば 麻中の蓬の直きが如し
惡しき友に親近すれば 藪の中の荊曲の如し
祖に離れ疎師に付きて 戒定惠の業を習へ
根性は愚鈍なりと雖も 自ら好めば學位に致る
一日に一字學びて 三百六十字
一字千金に當る 一點他生を助く
一日師を疎かにせず 况や數年の師を乎
師は三世の契り 祖は一世の睦
弟子七尺去つて 師の影を踏むべからず
觀音は師孝の爲に 寶冠に彌陀を戴き
勢至は親孝の爲に 頭に父母の骨を戴き
寶甁に白骨を納む
朝早く起きて手を洗ひ 意を攝めて經卷を誦せよ
夕には遲く寢るとも足を洒ぎ 性を靜めて義理を案ぜよ
習ひ讀めども意にいれざれば 醉ひ寐て讇を語るが如し
千卷を讀めども復さざれば 財無くして町に臨むが如し
薄き衣の冬の夜も 寒を忍びて通夜に誦せよ
乏しき食の夏の日も 飢を除きて終日習へ
酒に醉えば心狂亂し 食を過ごせば學文に倦む
身を溫むれば睡眠を增す 身を安んずれば懈怠起る
匡衡は夜學の爲 壁を鑿ちて月光を招く
孫敎は學文の爲 戸を閉じて人を通ぜず
蘇秦は學文の爲 錐を股に刺して眠らず
俊敬は學文の爲 繩を頸に懸けて眠らず
車胤は夜學を好んで 螢を聚めて燈とす
宣士は夜學を好んで 雪を積みて燈とす
休穆は文に意を入れて 冠の落つるを知らず
高鳳は文に意を入れて 麥の流るるを知らず
劉完は衣を織り乍ら 口に書を誦して息まず
倪寬は耕作し乍ら 腰に文を帶びて捨てず
此等の人は皆 晝夜學文を好みしに
文操國家に滿つ 遂に碩學の位に致る
縱へ塞を磨き筒を振るとも 口には恆に經論を誦せよ
又弓を削り矢を矧げども 腰には常に文書を插しはさみ
張儀は新古を誦して 枯木菓を結ぶ
龜耄は史記を誦して 古骨に膏を得たり
伯英は九歲にして初めに 早く博士の位に至る
宋吏は七十にして初めて 學を好んで師傳に昇る
智者は下劣なりと雖も 高臺の客に登り
愚者は高位なりと雖も 奈利の底に墮つ
智者の作る罪は 大いなれども地獄に墮ちず
愚者の作る罪は 小さなれど必ず地獄に墮つ
愚者は常に憂ひを懷く 譬へば獄中の囚の如し
智者は常に歡樂す 猶光音天の如し
父の恩は山より高し 須彌山尙下し
母の德は海よりも深し 滄溟海還つて淺し
白骨は父の淫 赤肉は母の淫
赤白二諦和して 五體身分と成る
胎内に處ること十月 身心恆に苦勞し
胎外に生れて數年 父母の養育を蒙る
晝は父の膝に居て 摩頂を蒙ること多年
夜は母の懷に臥して 乳味を費すこと數斛
朝には山野に交はりて 蹄を殺して妻子を養ふ
暮には紅海に臨みて 鱗を漁つて身命を資く
旦暮の命を資けん爲に 日夜惡業を造りて
朝夕の味を嗜まんとす 多劫地獄に墮つ
恩を戴きて恩を知らざるは 樹の鳥の枝を枯らすが如く
德を蒙りて德を思はざるは 野の鹿の草を損ぜしむるが如し
酉夢其の父を打てば 天雷其の身を裂く
班婦其の母を罵れば 靈蛇其の命を吸ふ
郭巨は母を養はん爲 穴を掘つて金の釜を得
姜詩は自婦を去つて 水を汲むに庭泉を得
孟宗は竹中に哭きて 深雪の中に筍を拔く
王祥歎きて氷を叩けば 堅凍の上魚踊る
舜子は盲父を養ひて 涕泣すれば兩眼開く
刑渠は老母を養ひて 食を噛みて齡若く成る
董永は一身を賣りて 孝養の御器に備ふ
楊威は獨りの母を念ひて 虎の前に啼きて害を免る
顏烏墓に土を負へば 烏鳥來たりて運び埋む
許牧自ら墓を作るに 松柏植わりて墓と作る
此等の人は皆 父母に孝養を致せば
佛神憐愍を垂る 望む所悉く成就す
生死の命は無常なり 早く欣ふべきは涅槃なり
煩惱の身は不淨なり 速に求むべきは菩提なり
厭ふても厭ふべきは娑婆なり 會者定離の苦
恐れても恐るべきは六道なり 生者必滅の悲しみ
壽命は蜉蝣の如し 朝に生れて夕に死す
身體芭蕉の如し 風に隨つて壞れ易し
綾羅の錦繍は 全く冥途の貯えに非ず
黃金珠玉は 只一世の財寶
榮花榮耀は 更に佛道の資けに非ず
官位寵職は 唯現世の名聞
龜鶴の契りを致す 露命消えざる程
鴛鴦の衾を重ぬるも 身體の壞れざる閒
刀利摩尼殿も 遷化の無常を歎く
大梵高臺の客も 火血刀の苦しみを悲しむ
須達の十德も 無常に留まること無し
阿育の七寶にても 壽命を買ふに無し
月支の月を還せし威も 王の使ひに縛らる
龍帝の龍を投ぐる力も 獄卒の杖に打たる
人尤も施し行ふべし 布施は菩提の粮
人最も財を惜しまざれ 財寶は菩提の障り
若し人貧窮の身にて 布施すべき財無くんば
他の布施する時を見て 隨喜の心を生ずべし
心に悲しみて一人に施せ 功德大海の如し
己の爲に諸人に施せ 報ひを得ること芥子の如し
砂を聚めて塔と爲す人は 早く黃金の膚を硏く
花を折つて佛に供ずる輩は 速かに蓮臺の趺を結ぶ
一句信受の力 轉輪王の位に超へたり
半偈聞法の德は 三千界の寶にも勝れり
上は須く佛道を求む 中ばは四恩を報ずべし
下は編く六道に及ぶ 共に佛道を成ずべし
幼童を誘引せんが爲に 因果の道理を註す
内典外典より出だす
見る者誹謗すること勿れ 聞く者笑ひを生ずることなかれ